孫子と日本史⑧：「正を以って合し、奇を以って勝つ」“奇策” だけでは勝てない？ ～「正と奇」で読み解く義経の “逆落とし”～ (孫子と義経)　

【はじめに：「正を以って合し、奇を以って勝つ」のメッセージは？】

🔗 この記事は、「孫子の教え」に考察を加えた記事の1つです
▶︎【「孫子の教え一覧」（シリーズまとめ記事）】

そもそもですが、皆様は「正を以って合し、奇を以って勝つ(せい を もって あいし、き を もって かつ)」って、聞いたことありますか？　ご承知の通りだと思いますが、「正攻法で、相手と組みあい、奇策によって、勝利に導く」、といった意味ですよね(そのままですが…)。勝手かもしれませが、もう少し深堀してみると(個人的な理解を加えてみると)、「正攻法だけでも、奇策だけでもダメで、基本は基本としてしっかり押さえ(正攻法)、その上で応用(奇策)をする事が必要で、またその奇策(応用)も、あくまでも正攻法(基本)をベースにものである事が必要」と言った理解をしています。

こちらのページでは、そんな個人的印象を持っているフレイズ？(センテンス？)・「正を以って合し、奇を以って勝つ」に付き、記載させて頂こうと思います。すなわち、「『孫子』の中に出てくる『正を以って合し、奇を以って勝つ』と言うワード(フレイズ？・センテンス？)に付き、その意味を抑えた上で、『具体的な例』を『日本史上の出来事』から考えてみたい」と思います。

【「義経」は「正を以って合し、奇を以って勝つ」を実践した日本史上の武将か？】

上記、「正攻法だけでも、奇策だけでもダメで、基本は基本としてしっかり押さえ(正攻法)、その上で応用(奇策)をする事が必要で、またその奇策(応用)も、あくまでも正攻法(基本)をベースにものである事が必要」と言った内容で、個人的に理解している「正を以って合し、奇を以って勝つ」と言う「孫子の教え」ですが、その具体的な「日本史上の戦の例」って、皆さんは何か思い浮かぶものはありますでしょうか？　これも個人的な発想で恐縮ですが、小田原の北条氏と甲斐の武田氏が争った「三増峠の戦い」もありますが、真っ先に思い浮かんだ「武将の名前」が「源義経」で、彼が実践した「鵯越の逆落とし」を含む「一ノ谷の戦い」における戦い方でした(「三増峠の戦い」は別記事ご参照ください)。Wikipedia によると、この「逆落とし」があったとされる、「一ノ谷の戦い」は、「平氏側：8 – 10万」、「源氏側：6.6万(大手軍は源範頼率いる5.6万、義経率いる搦手軍1万)」の戦です。また、開戦時には、しっかり「大手側の範頼軍」が、「正を以って合し」ています。そして「搦手側の義経軍」が、「奇を以って勝つ」を遂行した戦だと認識できます。つまり、『「正攻法を範頼軍」が担当し、「奇策を義経軍」担当する事で、「正を以って合し、奇を以って勝つ」と言う「孫子の教え」を実践した戦である』と、(若干個人的な妄想含みますが…)理解している次第です…。

Wikipedia の項目より、「それが理解できるポイント」を抜粋させて頂きますと、以下の様にあります。

(略)　開戦・生田の戦い：2月7日払暁、先駆けせんと欲して義経の部隊から抜け出した熊谷直実・直家父子と平山季重らの5騎が忠度の守る塩屋口の西城戸に現れて名乗りを上げて合戦は始まった　(略)　直実らは奮戦するが、多勢に無勢で討ち取られかけた時に土肥実平率いる7000余騎が駆けつけて激戦となった。午前6時、知盛、重衡ら平氏軍主力の守る東側の生田口の陣の前には範頼率いる梶原景時、畠山重忠以下の大手軍5万騎が布陣。範頼軍は激しく矢を射かけるが、平氏は壕をめぐらし、逆茂木を重ねて陣を固めて待ちかまえていた。平氏軍も雨のように矢を射かけて応じ源氏軍をひるませる。平氏軍は2000騎を繰り出して、白兵戦を展開　(略)　義経と分かれた安田義定、多田行綱らも夢野口（山の手）を攻撃する。生田口、塩屋口、夢野口で激戦が繰り広げられるが、平氏は激しく抵抗して、源氏軍は容易には突破できなかった。

逆落とし：精兵70騎を率いて、一ノ谷の裏手の断崖絶壁の上に立った義経は戦機と見て坂を駆け下る決断をする　(略)　義経は「心して下れば馬を損なうことはない。皆の者、駆け下りよ」と言うや先陣となって駆け下った。坂東武者たちもこれに続いて駆け下る。(略)。崖を駆け下った義経らは平氏の陣に突入する。予想もしなかった方向から攻撃を受けた一ノ谷の陣営は大混乱となり、義経はそれに乗じて方々に火をかけた。平氏の兵たちは我先にと海へ逃げ出した　(略)

https://ja.wikipedia.org/wiki/一ノ谷の戦い

少々、長くなってしまうので、途中、「(略)」を入れさせて頂きましたが、更に簡単に言ってしまうと、以下の感じで理解させて頂いた次第です。

『「大手軍(こちらが主軍と思われます)」と「搦手軍(こちらが遊撃隊的な役割をする軍と認識)」が、しっかりと挟み撃ちをする「正攻法の形」で組みあって、その後「逆落とし」で側面を「強襲(奇襲)」し、火を放ち、敵軍を打ち破った戦いであった』

つまり、自身の理解では、『「孫子の考え方」に従い、しっかりと自軍を勝利させた「源氏軍あっぱれ！」な戦い』で、『「範頼」も「義経」も称賛される戦い方』をしている様に見えますが、よく大河ドラマ等で描かれるのは、「義経の独断」・「義経の大将あるまじき無茶な行為」と言ったような描かれ方をしている認識でもあります…。

しかし、上記を「事実」として捉えるならば、「義経」と「範頼」が、どこまで連携できていたかは見えないものの、「正を以って合し、奇を以って勝つ」を、しっかりと実行しており、「奇策の打ち方」も、「相手の虚を突く、戦的には素晴らしいもの」に見えてしまう次第です。『なのに何故、頼朝も、範頼も、「義経よくやった！、ありがとう！」と言わなかったのか？』と改めて思ってしまいました…。そんな鮮やかな戦い方に対し、個人的には「日本三大奇襲」に加え、「日本四大奇襲」として、この戦い：『「鵯越の逆落とし」を含む「一ノ谷の戦い」』を加えて良い気がしている次第ですが…。

【「義経」は「自身の才能」に飲み込まれてしまったのか？】

では、なぜ「義経は悪く言われてしまう様になった」のでしょうか？ これは恐らく、(私の勝手な想像(妄想？)かもしれませんが)「『味方である源氏』の誰もが、『義経の才能』を目の当たりにし、それを認めると同時に、それが故に『恐怖心を持ってしまった…』」と言う事だと思ってしまった次第です…。この「源平争乱の時代」に、日本に「孫子」が伝わっていたか否かは知りませんが、「孫子の教え」は、誰もが考えさせられ、納得できる内容だと思います。しかし同時に、「人を致して人に致されず」の記事でも記載しましたが、「こんな戦術を取ればよい」と分かっていても、「それを実行する事は簡単ではない」と言う事です。ところが「義経」は、こんな「絵にかいたような戦い方」を見事にやってのけ、続く「屋島・壇ノ浦」でも平氏を撃破し、滅亡に追い込んだ訳です。

源平合戦の舞台の一つになった「屋島」の様子

にもかかわらず、「頼朝を頭とする源氏一族」に、最後には「平泉で討たれてしまう」訳で、これは、『源氏一族、とりわけ「頼朝」の「義経」に対する恐怖心』が導いた結果以外の無いものでもないと思ってしまうのは、私だけでは無いと思う次第です。言い換えれば、『「戦に天賦の才を持っていた義経」は、「その自信の才能」が仇となって、「周囲の恐怖心」を買ってしまい、平氏討伐と言う歴史に残る功績を残したが、最終的には排除されてしまった…』と言う悲しいストーリーと理解した次第です(別記事で、平泉の毛越寺や金色堂で有名な中尊寺を紹介しており、また、範頼と関連の深い埼玉県吉見町の息障院も別記事で紹介しています)。

【最後に】

以上が、「『孫子』の中に出てくる『正を以って合し、奇を以って勝つ』と言うワード(フレイズ？・センテンス？)に付き、その意味を抑えた上で、『具体的な例』を『日本史上の出来事』から考えてみた」内容になります。

ちょっと、勝手な考察(妄想？)をさせて頂きましたが、皆さまはどう思われましたでしょうか？　「正を以って合し、奇を以って勝つ」を、いとも簡単に、実践でやってのけた「源義経」であったが、「実行が難しい孫子の教え」を、簡単にやってのけてしまう「彼の才能」によって(「言うは易し」＝「実行は難しい」)「抹殺」されてしまった…。言い換えれば、「才能に食べられてしまった感じ…」がしてしまったと言う考察をさせて頂いたわけですが、同お感じになりましたでしょうか？

個人的には、現代でも「ものすごい才能がある人」が、自殺したり、ドラッグに手を出したりと、「自身の才能に食べられてしまうようなケース」を耳にする事もありますので、凡人には、到達できない心持を感じている事でしょうから、そういった人が近くに出てきた時には、何処までサポートできるか解りませんが、少しでも力になれるように、協力出来たらいいなと改めて思った次第ですが…。

尚、本ブログ別記事では、他の「孫子の教え」につき、「サマリ的に一覧でも記載」しておりますし、「それぞれの “教え” を一歩深堀して記載」もしておりますので、宜しければ、是非ご参照ください！
　①「兵は拙速を聞くも、未だ巧久しきを睹ざるなり」
　②「風林火山」
　③「迂直の計」
　④「百戦百勝は善の善なるものにあらず」
　⑤「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」
　⑥「人を致して人に致されず」
　⑦「囲師には必ずかく」
　⑧「正を以って合し、奇を以って勝つ」
　⑨「勝兵は鎰を以て銖を称るがごとく」
　⑩「先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん」
　⑪「善く戦う者は、これを勢に求めて、人に責めず」
　⑫「呉越同舟」
　⑬「軍を縻す」
　⑭「兵を形すの極は無形に至る」
　⑮「死地に陥れて然る後に生く」
　⑯「君命に受けざる所あり」
　⑰「爵禄百金を愛んで敵の情を知らざる者は不仁の至りなり」

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