孫子と日本史⑤：「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず…」　～関ヶ原で家康が仕掛けた “仕込み戦略” を妄想～　(孫子と家康)

【はじめに】

🔗 この記事は、「孫子の教え」に考察を加えた記事の1つです
▶︎【「孫子の教え一覧」（シリーズまとめ記事）】

いきなりですが、そもそも皆様は、「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」と言うワード(フレイズ？・センテンス？)って聞いた事ありますか？　「孫子」の中で、「最も有名なフレーズの1つ」だと思いますので、ご存じの方も大勢いらっしゃると思います…。一般的に言われている理解は、「『自身の置かれた状況』に加え、『相手方の情報』もしっかり押さえておけば、憂いは無い…」と言った所でしょうか？ ただ中には、「『自身』のみならず、『相手方』の情報を抑える事で『勝つ事が出来る』」と言った理解をされている方もいらっしゃる様にも思いますが、「個人的には、少し違った理解」をしている次第です。

こちらのページでは、そんな個人的印象を持っているフレイズ？(センテンス？)・「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」に付き、記載させて頂こうと思います。すなわち、「『孫子』の中に出てくる『彼を知り己を知れば百戦して殆うからず』と言うワード(フレイズ？・センテンス？)に付き、その意味を抑えた上で、『具体的な例』を『日本史上の出来事』から考えてみたい」と思います。

【「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」のメッセージは？】

上記、”「『自身』のみならず、『相手方』の情報を抑える事で『勝つ事が出来る』」と理解されていらっしゃる方もいらっしゃる認識” と記載しましたが、取り急ぎ、この「孫子」のフレーズ：「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」に関し、自身の理解を「一歩踏み込んで記載」させて頂きますと、以下の様になる理解です。

「自軍の戦略や、Keyとなる人材の長所や短所、使える武器やお金等の情報は勿論、同じように敵の戦略や、人材、武器、お金等の情報を持っていれば、何度戦っても『負ける事は無い』」

個人的な理解で恐縮ですが、ここでのポイントは、「負ける事がない」と言う事だと思います。もう少し記載しますと、「敵の戦略等のソフト面と武器等のハード面をしっかり押さえる事が出来れば、自軍と比較して、勝てるか勝てないか、大体の予測はつくので、それを挽回するだけの地の利や、敵軍の自滅等がない限りは、戦うな（＝逃げろ）」と言う理解で宜しいと思います。

【「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」から連想する日本史上の武将は？】

ではこのフレーズ：「彼を知り己を知れば百戦してあやうからず」を聞いて、思い出す「日本史上の武将・出来事」は、何か思い浮かびますでしょうか？　私の場合、思い浮かんだのは「戦国武将で」で、その人は「徳川家康」です。「家康」と言えば、「鳴かぬなら、鳴なくまでまとうホトトギス」で有名ですね。悪く言えば、「タヌキおやじ」なんていわれますが、よく言えば、「探求心がある」というか、「試行錯誤が得意」と言った感じでしょうか？　

しかし、「戦国の世」で、「戦で負ければ、命も取られる時代」に、「75歳まで生き、江戸幕府を開いた事」は、「逃げる時には、しっかり逃げていた」と言う事だと思っております。2つほど例を挙げれば、以下の「実例」が、挙げられるのでないかと思います。

1. 長男を切腹させた時
2. 三方ヶ原の戦い　(三方ヶ原の戦いと浜松城に関しては、別記事で紹介しています)

上記2つが、「家康の人生において、重要な逃げの局面」だったと思います。

前者は、「織田に対する謀反を疑われ、『織田信長と戦う』か、『長男の切腹を受ける』かの選択」になると思いますが、「当時の家康が、織田と敵対し、戦って勝てるはずがなく」、嫡男だけでなく、『「家」全体が滅亡するなら、(正妻の処罰も含め)嫡男の切腹を受け入れた』と言う事だと推測しています。

また、後者は、「しっかりと、自軍・相手方の戦力が分析が無いまま、『武田信玄の術中』にはまり、戦局が悪くなったので逃げた」のでしょうが、「最後まで戦う事をせず、逃げた」という意味では、「逃げる事の重要性」をしっかり理解していたともいえます(「三方ヶ原の戦い」に関しては、別記事で紹介していますので、そちらをご参照ください)。

三方ヶ原古戦場　MAP

【一般的に不利と思われる関ケ原で、家康はなぜ戦に挑んだ？】

そんな「逃げる事の重要性」を人首位記していた「家康」、「関ケ原では、なぜ逃げなかった」のでしょうか？　

よく言われるのは、「石田三成率いる西軍」は、「家康を関ケ原で迎え撃つ格好」となっており、「布陣も完璧」。更に、「徳川本軍の秀忠軍」は、上田における真田との戦で足止め(秀忠が陣を敷いた小諸に関しても紹介しています)がひびき「戦場の関ケ原に遅延」。にもかかわらず、「家康は逃げずに戦い」、たったの1日で勝利。

「小早川の裏切りがあったからこそ、勝った」と言った様な言われ方をしている「関ケ原の戦い」ですが、「家康」は、しっかりと「勝算」をもって、「関ケ原の地」に向かっていると個人的には認識しております。言い換えますと、上記に記載した様に「逃げる事の重要性」を熟知している「家康」が、「不利と言われる状況」に、「逃げずに入って行く」とは思えないのです。

逆に言うと、「『家康』は、『敵の Key となる武将』の事を、よく知っており、「三成の統率が弱い事」を知っていた上、特に『毛利の両川(＝吉川・小早川)』を、家康方として、しっかり押さえていたので、『勝算を十分に持っていた』からこそ合戦に臨んだ」と言うのが、私の勝手な「考察(思い込み？・妄想？)」と言うものです。

事実、「家康の布陣した背後」には、「毛利・吉川」が、「南宮山に2万近い軍で布陣」するも、「家康率いる東軍」は、その抑えに、「1万程度の軍しか」おいていませんし、「小早川が攻める(裏切る)タイミング」も、これ以上ない「絶好のタイミング」。「1.5万と言われる小早川軍」と「2万と言われる毛利・吉川軍」を併せて「3.5万の西軍」(西軍 ＝ 8万と言われている認識なので、「毛利とその両川」で「40％以上」の兵数）の「無力化もしくは、寝返り」が見込めていたのであれば、「家康であっても逃げずに勝負」すると思えると言う事です。

「背後の毛利・吉川は動かない」とわかっており、「小早川は ”あらかじめ” 中央で戦闘が始まり、しばらくしてから側面を打つ」事を予定していた…(最初から東軍なら、松尾山に布陣できないでしょうし…)。諸説ある様ですが、開戦当初は、「石田三成率いる西軍が明らかに有利」と言われる「軍勢」と「配置」も、その有利な地に陣取った「毛利軍(吉川・小早川軍含む)3.5万」の「無力化 or 寝返りが予め想定」されていたのであれば、「東軍(家康)の勝利」は、「ほぼ確定していた」と考える事が出来るという事です(三成が水攻めを行った忍城の紹介とその戦(忍城攻め)に対する考察、毛利の礎となった厳島の戦い、をそれぞれ別の記事で紹介しています)。

【最後に】

以上が、「『孫子』の中に出てくる『彼を知り己を知れば百戦してあやうからず』と言うワード(フレイズ？・センテンス？)に付き、その意味を抑えた上で、『具体的な例』を『日本史上の出来事』から考えてみた」内容になります。

上記、「『家康』は、『敵の Key となる武将』の事を、よく知っており、「三成の統率が弱い事」を知っていた上、特に『毛利の両川(＝吉川・小早川)』を、家康方として、しっかり押さえていたので、『勝算を十分に持っていた』からこそ合戦に臨んだ」と言った、勝手な考察(思い込み？・妄想？)をさせて頂きましたが、皆さまは、どの様に思われましたでしょうか？ 「彼を知り己を知れば百戦してあやうからず」。「しっかりと『自軍 & 相手方』を分析」し、「逃げるときは逃げ」、「戦う時には戦う」…。確かにその通りだと思いますし、理解できますけど、一番難しいのは、「そのジャッジをするための『情報収集と分析』」ですよね…。でも、「これをやり切った家康」は、「やはりすごい人」なんだと、改めて思った次第です…。

尚、本ブログ別記事では、他の「孫子の教え」につき、「サマリ的に一覧でも記載」しておりますし、「それぞれの “教え” を一歩深堀して記載」もしておりますので、宜しければ、是非ご参照ください！
　①「兵は拙速を聞くも、未だ巧久しきを睹ざるなり」
　②「風林火山」
　③「迂直の計」
　④「百戦百勝は善の善なるものにあらず」
　⑤「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」
　⑥「人を致して人に致されず」
　⑦「囲師には必ずかく」
　⑧「正を以って合し、奇を以って勝つ」
　⑨「勝兵は鎰を以て銖を称るがごとく」
　⑩「先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん」
　⑪「善く戦う者は、これを勢に求めて、人に責めず」
　⑫「呉越同舟」
　⑬「軍を縻す」
　⑭「兵を形すの極は無形に至る」
　⑮「死地に陥れて然る後に生く」
　⑯「君命に受けざる所あり」
　⑰「爵禄百金を愛んで敵の情を知らざる者は不仁の至りなり」

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